3 月 11 日の震災発生から半月の間、Google は矢継ぎ早にサービスを開発し、世に送り出し続けた。パーソンファインダー(第 6 回、第 7 回、第 8 回)を皮切りに、被災地の衛星写真・航空写真(第 13 回)、テレビニュース番組のライブ配信(第 10 回)、自動車・通行実績情報マップ(第 12 回)、被災地生活救援情報(第 16 回)といったサービスを提供し、一方では企業や自治体のインフラをサポート(第 9 回)した。
しかし、クライシスレスポンスを中心になって推進してきたコアメンバーの中には、疑問も生まれ始めていた。
「自分たちが作っているサービスは、本当に被災地の役に立っているのだろうか?」
「今、被災地の人々は、何を必要としているのだろう?」
Google の社員達はさまざまなニュースソースから情報を集め、必要とされると思われるサービスを開発してきた。パーソンファインダーではボランティアやマスメディア等と連携することで安否情報が 67 万件も登録されたし、衛星写真・航空写真は海外のメディアにも広く利用されている。その他のサービスについても、大勢から好意的な反応を得ていたのは確かだ。ただし、被災地の人々からの声を(ネットからフィードバックは寄せられてはいたとはいえ)直接聞いたわけではなかったし、「その次」に何を提供すべきかメンバーもわからなくなっていた。
たびたび議論の対象となった課題の 1 つとしては、救援物資があった。全国各地から被災地には救援物資が送られていたが、適切な物資が必要とされている地域に届いていないとも報道されている。ならば、救援物資用の検索・マッチングシステムを作ってサポートするべきなのか? 避難所の状況も地域によって大きく異なり、食事が満足に行き渡っていないところもあると聞く。では、そのデータを誰がどう取得するべきなのか?
これまでに、Google はハイチやニュージーランドの大地震でもクライシスレスポンスを行ったが、従来の活動は基本的に危機対応であった。しかし、東日本大震災は地震や津波による被害だけでなく、原子力発電所事故も引き起こした、過去に例を見ない大規模かつ複合型の災害である。その影響は、数週間どころか数カ月、数年にも及ぶと予想された。クライシスレスポンスはその後の復興も視野に入れて活動をすべきなのか?
コアメンバー達はクライシスレスポンスの作業を進めると同時に、こうした課題について議論を交わした。しかし、1 週間ほど経つと議論も堂々巡りになってしまう。
やがて実際に被災地で人々のニーズを聞いた上で、自分たちに何ができるのかを考えようということで、メンバーの意見は一致した。
被災地でのヒアリングプロジェクトは、"Go North"(北に向かう)と名付けられた。コアメンバーは、パーソンファインダーなどのサービスで連携した自治体や支援団体と連絡を取り、4 月 4 日から 4 日間の日程で、賀沢秀人、河合敬一、根来香里、藤井宏一郎、村井説人、山崎富美の 6 人が被災地に入った(7 日には牧田信弘も合流した)。
4 月 4 日(月)の朝、メンバーは羽田から山形空港に飛び、そこからレンタカーで仙台を目指した。4 月頭の東北はまだまだ寒さが厳しいが、道路の路面状態には特に問題もなく 2 時間弱で仙台に到着。仙台駅前の様子は、メンバー達が事前に予想していた光景とはだいぶ異なっていた。建物はほとんど損傷を受けておらず、ガソリンスタンドにも混乱は見られない。営業中の店もところどころにあり、ガスなどの制限がある中、何とかサービスを提供しようとがんばっていた。
メンバーは数人ずつに分かれて、さっそくヒアリングを開始した。対象となるのは、国土交通省東北地方整備局、宮城県・岩手県の災害対策本部、仙台市役所などの官公庁、仙台の商工会議所や産業振興事業団、東北大学、NPO の支援団体、そして石巻赤十字院病院など、10 箇所以上にも及んだ。