コラボレーションで進化したクライシスレスポンス

震災直後、インターネット上では、災害情報を適切に伝えようという「情報支援」の動きが活発化してきた。Google も企業や個人と連携し、コンテンツやサービスを次々と公開していった。

2012 年 3 月 9 日掲載

独力での情報提供よりも、連携した情報提供が大事

避難所に貼られた名簿を有志が携帯電話で撮影し、ネット上のボランティアが文字に起こしてパーソンファインダーに入力していった。

 まだ大きな余震もつづいていた震災直後の最初の週末、多くの人々は家にこもってテレビやラジオで状況を見守っていた。

 インターネットにアクセスできた人々は、被災地の被害の状況や水・食料などの支援、そして原子力発電所や電力の状況について、より早く情報が伝わってくる Twitter などのソーシャルメディアで情報を収集していた。地震の直後から、Twitter は被災地にいる人々や各分野の専門家の意見を得ることができる、有用な情報獲得ツールとなっていた。

 この Twitter 上でのやりとりを通して、必要な人に必要な情報を届ける「情報支援」という形の支援があることに多くの人々が気づき始めた。最初の週末だけでも、各種サバイバル情報や Google のマイマップにまとめ直した公共情報といったコンテンツから、個人やプログラマーグループが独自に開発した安否確認や避難所情報などの情報交換サイトまで、次々と情報支援の取り組みが立ち上がり始めた。

 3 月 11 日、地震直後の初動で Google が公開したのは、パーソンファインダーや衛星写真、混乱していた鉄道の運行状況がわかる「鉄道遅延情報」など、Google がすでに持っていた技術や情報を元につくられたサービスが多かった。

 しかし、それが一段落すると、他社との協力の下で情報提供するサービスに自然と軸足が移っていった。非常時に何か人に役立ちそうな情報があれば、その情報を持つのが他の企業であれ、機関であれ、組織であれ、かまわずに声をかけ、連携を呼びかけていった。

 パーソンファインダーも初期の段階では、Google が独自に広報をして登録を呼びかけたが、その後はまず NHK がテレビで提供していた安否確認の情報を統合。新聞社や携帯電話事業者、警察庁の情報も加わった。さらに、避難所にいる人々の名簿を携帯電話のカメラで撮影し、インターネット上のボランティアが書き起こすという形でデータ化した「避難所名簿共有サービス」が加わり、最終的には 67 万件以上の登録がある巨大なデータベースが放送局や通信事業者の間で共有された。

 避難所情報についても同様のことがいえる。当初は Google 社員が自ら避難所に関する情報を集めていたが、その後毎日新聞社からの情報が加わり、17 日(木)には個人や報道機関等が情報を入力できる専用フォームが追加されている。

常識の枠を超えたテレビ局とのコラボレーション

 東日本大震災の発生後は緊急事態ということもあって、平常時には考えられないさまざまな試みが行われた。なんといっても、多くの人に強く印象に残っているのが、テレビのインターネット同時中継だろう。Google の動画共有サービス「YouTube」はふだんからテレビ局を始め、さまざまなコンテンツホルダーと協力関係にあるが、テレビ放送をそのままインターネットに流すということは平常時の日本ではなかなか難しい。

 しかし、海外にいる人々や、避難先にテレビがなかった人達から、信頼できる情報をリアルタイムで得たいという声が多くあがっていた。そんな中、広島の中学生が NHK の放送を iPhone のカメラで撮影して Ustream に中継を開始。しばらくすると、その URL を NHK の広報用の Twitter アカウントが、自らの責任で紹介し、お墨付きを与える形となった。その後、NHK 本体も動きだし、3 月 11 日の 20 時半には Ustream の公式チャンネルで、テレビ放送のインターネット配信を開始した。

 同じ頃、YouTube も、コンテンツ提供の公式パートナーである TBS と連絡を取り合い、当時はまだベータ版であった「YouTube ライブストリーミング」機能を使って、11 日の 23 時頃から TBS News-i チャンネルの配信を行った。TBS News-i チャンネルの配信は、その後 1 週間、18 日(金)の 17 時まで継続して行われ、特に海外で日本の状況を気遣う人々に貴重な情報を提供することになった。

 テレビ局と YouTube の連携は続き、同じ 18 日には「YouTube 消息情報チャンネル」が開設されている。これは TBS/JNN、およびやはり公式パートナーであるテレビ朝日、テレビ朝日系列各局が被災地で撮影したメッセージ動画を集めたもの。350 本の動画で、約 650 人の安否情報と家族や友人へのメッセージが配信された。

個人から救援隊まで広く活用された最新の地理情報

14 日に公開された「自動車・通行実績情報マップ」。青く表示されている道路は、前日に通行実績があったことを示している。

 災害発生後、安否情報と並んで最も活用されたのが地図の情報だろう。交通網が止まっていた都市では、多くの人々が普段なら公共交通機関で移動していた家路を、スマートフォンで地図を見ながら歩いて帰った。原子力発電所周辺からの避難命令が出た時には、大勢がパソコンを使って自宅と原子力発電所との距離を測った。

 また、津波被害を受けた場所にゆかりのある人達は、ニュースで読み上げられた近隣都市と自分の故郷との位置関係を調べたり、航空写真で被害の状況を確認していた。

 一方、こうしたデジタル地図情報は、地震の直後から救援活動で被災地に足を踏み入れたボランティアの人々にとっても重要な道しるべとなった。

 震災を受けて各国からの救援隊が被災地へと駆けつけてくれたのは記憶に新しいが、彼らが活動するためには、現地の地図が必須だった。そこで、Google と地図データ提供会社は即座に連絡を取り合い、11日深夜にはオフライン(ネット接続なしの状態)でも使えるようにした Google Earth を救援隊へと提供した。

 衛星写真や航空写真では、大がかりな取り組みも行われた。Google Earth や Google マップでは GeoEye 社の衛星写真が使われているが、Google は GeoEye と協議しながら被災地の撮影ポイントを決定。雲などの天候状況に気をもみながら、きれいに撮れていた被災地の写真から順次公開、これをほぼ毎日繰り返していた。こうして得たデータは13日(日)の正午には Google Earth で公開されている。ただ、地球から離れた軌道上の衛星から撮影した写真では、ディテールがわかりにくい部分もある。被災地のより細かな状況を把握するには、飛行機から撮影した写真であると判断し、関係各所の調整を行って 3 月末にはより解像度が高くて鮮明な航空写真も用意した。

 震災後、被災地周辺の道路は大きなダメージを受けており、通行止めになっている箇所も少なくなかった。DVD やハードディスクに地図データを収録している一般的なカーナビだと、打ち上げられた瓦礫(がれき)で道が遮られてしまった道路や、津波で流されてしまった橋など、通行不能な箇所も表示されてしまい、立ち往生することが多い。ここで活躍したのが、自動車メーカーやカーナビメーカーが持つ通行実績のデータだ。ホンダは、双方向通信カーナビのインターナビから過去 24 時間の通行実績データを収集し、これを独自に Google Earth 用のデータとして提供していた。しかし、やがてホンダと Google の間で話し合いが行われ、情報を Google マップ上でも直接見られるようにしようということになった。この「自動車・通行実績情報マップ」は、14 日(月)の午前 2 時にクライシスレスポンスページ上で公開された。28 日(月)にはトヨタや日産のデータも含む、ITS Japan のデータを元にして提供されるようになった。

 自動車・通行実績情報マップと航空写真を切り替えて表示することで、例えば道路の上に巨大船が打ち上げられ道を遮断している様子もわかり、通行の妨げの原因を追及することもできた。

アクセスの集中する公共機関のサーバーを後方支援

 Google が行ってきた災害対応の中には、独立したサービスとして提供されていないものも多い。

 ネットワークインフラ面でのサポートなどがそれに当たり、代表的な例が、東京電力が実施した計画停電情報提供に関する取り組みだ。

 地震と津波の影響で東京電力、東北電力管内では複数の発電所が停止し、週明けには電力不足になることが予想された。そのため、13 日(日)の時点で、14 日(月)からの計画停電(輪番停電)を実施するという旨のアナウンスが東京電力によって行われた。詳細は深夜の記者会見で明かされたが、記者会見が終わった直後、質疑応答の最中にも訂正情報が紹介されるといった混乱ぶりであった。質疑応答の終了を待たなかったマスメディアによって訂正前の情報が報道されたこともあり、混乱はさらに広がった。そのため、正確かつ最新の情報を求める人々が一斉に東京電力の公式ウェブサイトに押し寄せた。だが、そもそもこれまであまり多量のアクセスを受けたことのなかった同社のサーバーは脆弱ですぐにアクセス不能に陥る。そこで、経産省からの呼びかけもあり日頃から膨大なアクセスに耐えている Google や Yahoo! Japan のサーバーでも同じ情報のミラーリング(再配信)を行うことになった。

 次いでGoogle は、計画停電の実施地域を Google マップ上に表示する「計画停電情報マップ」を 16 日に公開。計画停電のグループごとに地域を色分け表示するほか、郵便番号や住所からも予定を調べられるようにした。

 ウェブサーバーが大量のアクセスに耐えきれずに落ちてしまう現象は、電力会社に限らなかった。各地の自治体など、公共機関のサイトにも情報を求める人々が殺到したのである。Google は放射線医学総合研究所、WHO神戸センター、放射線医学総合研究所、文部科学省、東京都水道局、仙台市ガス局といった公共機関に連絡を取り、ミラーリングの作業を順次進めていった。

たくさんの小規模連携で幅広い情報ニーズに応える

「被災地生活救援情報」は、被災地のユーザーが利用しやすいよう携帯電話用ページが先に作られ、その後 PC 版が用意された。

 災害情報特設サイト(Google クライシスレスポンス)では、上記以外にも有用な情報やサービスが随時掲載された。

 13 日(日)には、「Google ウォレット」(当時の名称は「Google チェックアウト」)を使った、日本赤十字社の義援金募集が開始された。Google チェックアウトは決済代行サービスで、事前にクレジットカードを登録していれば、手数料なしに送金が行える。

 Google がコラボレーションを行ったのは大きな組織ばかりではない。Google 社員は、ブログや Twitter などを巡回し、炊き出しやガソリン供給、トイレ、医療機関等、生活情報を提供している個人ともコンタクトを取っていった。こうしたコミュニティサイトにアクセスが集中するのを避けるため、データを Google 側のサーバーに読み込んで表示する仕組みを構築し、14 日(月)にミラーリングを始めた。さらに情報を見やすくするため、16日(水) 21時半には「被災地生活救援サイト」というサービスとして災害情報特設サイト上に公開している。現地での利便性を高めるため、「被災地生活救援サイト」は携帯電話版が先行して作られ、18日(金)の夜に PC 版が公開された。

 Twitter などでは多くのユーザーが、Google に向けて常に新しい情報サービスのリクエストを投げかけていた。これらのリクエストすべてに応えることはできなかったが、例えば行方不明のペットの安否を確認する「Animal Finder」を始め、Google 社員の個人の裁量で立ち上がったサービスもいくつかある。

 震災の発生した 11 日から月末までの約 2 週間、Google は、さまざまな企業、機関そして個人と協力して、災害対応の施策を打ち出し続けた。

 だが、果たしてそれらの情報が、地震の一番の被害者達にどの程度役立っているのかがわからない。3月末になると「被災地の人々がどういった情報的支援を求めているのか、実際に現地に足を運んで確かめなければならないだろう」という声が災害対応チームのコアメンバーの間で自然と上がり始めていた。

取材、執筆、編集 : 林信行 / 山路達也

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