2011 年 3 月下旬、仙台では震災直後の混乱はある程度収まってきたものの、まだシャッターが閉まったままになっている店も少なくなかった。商店街が閑散としている光景は、市民にも不安を与えてしまう。そう考えた仙台商工会議所は、商店主を説得して店を開けてもらうようにお願いした。さらに、仙台市役所に協力してもらい、開店中の店を市のウェブページで紹介し、地元住民の便宜を図った。
だが、仙台の商店街が元気を取り戻し始めていることは、なかなか他の地域には伝わらない。
「仙台は大変な状況になっている」「仙台駅まで津波が押し寄せたそうだ」
Twitter などを見ると、そうしたデマがまことしやかに流れている。これでは、なかなか仙台に人がやってこないのも当然だ。また、製造業などの中小企業によっては、これまでの取引先となかなか連絡がつかず、ビジネスを軌道に乗せられずにいるところもあった。
仙台の商店や中小企業は元気に営業している。そのメッセージを日本全国に発信するにはどうすればよいのか。
"Go North"で仙台を訪れた Google のコアメンバーは、仙台商工会議所などから相談を受けて、ビジネス支援プロジェクトの検討を始めた。
Google のマーケティングチームの根来香里や井上貴子らが、急遽立ち上げたのが「ビジネスファインダー」である。Google は以前から「Google プレイス」(現在の名称は「Google+ ローカル)」を提供している。これは電話番号や地図、口コミなどといった、店や場所に関する情報をまとめて見られるサービスだ。Google プレイスに登録された情報は、Google マップで検索を行った時に表示されるようになる。4 月 27 日に公開されたビジネスファインダーは、検索対象の場所を被災地に限定し、店舗などを探しやすくした。
仙台商工会議所は、会議所の全会員にビジネスファインダーの開始を告知し、Google プレイスに店舗等の情報を登録するよう呼びかけた。仙台の近辺にあるいくつかの企業は、すぐさまこの呼びかけに応えた。例えば、明治時代から続く染物屋「永勘染工場」はさっそく Google プレイスに情報を登録して、復興支援をよびかける前掛けの販促を始めている。
ただし、ビジネスファインダーの利用は想定されていたほどには広まらなかったようだ。このサービスでは店舗名を入力して検索するようになっている。つまり、目的の店舗名がわかっている人が情報を探すのには便利なのだが、地図を表示してそこから検索する使い方にはあまり適さなかった。
仙台商工会議所は、石巻や気仙沼の商工会議所にも利用を呼びかけたが、震災による被害の大きかったこれら地域ではまだ混乱が続いていた。4 月、5 月の時点では、ネット上でプロモーションを行う余裕がほとんどの企業になかったのは残念であった。
なお、Google プレイスを利用した支援サービスはその後も続けられ、7 月 16 日には「仙台営業中!」というコンテンツが公開されている。これは、仙台に縁の深いタレントやアーティストらが、お気に入りの店や場所を紹介するというものだ。