米国西海岸時間の 3 月 10 日(木)22 時(日本時間 3 月 11 日(金)15 時)前、シリコンバレーの自宅でくつろいでいた Google 社員、カ・ピン イー(Ka-Ping Yee)の携帯電話に、クライシスレスポンスチームから 1 本のメッセージが飛び込んできた。
第 4 回「クライシスレスポンスの仕組み」で紹介したように、Google 社内には世界各地で起こる自然災害に対応するためのクライシスレスポンスチームが常設されており、カ・ピン イーもメンバーの 1 人だ。日本時間の 3 月 11 日(金)14:46 に発生した東日本大震災を受け、クライシスレスポンスチームはすぐさま活動を開始したのである。
カ・ピン イーが自宅のパソコンからクライシスレスポンスチームの専用チャットルームに入ると、すでに同僚のプレム ラマスワミ(Prem Ramaswami)とライアン フェラー(Ryan Falor)がディスカッションを始めていた。クライシスレスポンスチームが取る対応は災害の内容によって異なってくるが、多くの人にとってまず必要なのは家族や友人の安否情報だ。カ・ピン イーが中心となって開発した安否情報確認サービス「パーソンファインダー」は、2010 年 1 月のハイチ地震を皮切りに、同年 2 月のチリ地震、4 月の青海地震(中国西部の青海省チベット族自治州)、7 月のパキスタン洪水において活躍し、東日本大震災でも提供することが決定された。
パーソンファインダーは、「App Engine」(アップエンジン)上で動作するウェブアプリケーションである。App Engine とは Google が開発者向けに提供するサービスで、開発や維持管理の手間を減らせるのが特徴だ。一般的なサーバー(ネットワーク上に置かれたコンピュータ)上でサービスを提供する場合、サービス提供者がサーバーの維持管理を行う必要があり、アクセスするユーザーや扱うデータが増えると新たなサーバーを用意したり、アクセスが 1 つのサーバーに集中しないように工夫しなければならない。これに対して App Engine では、アプリケーションをサーバーにアップロード(サーバーにプログラムを読み込ませる)すれば、すぐにサービスが利用できるようになる。パーソンファインダーは 4 度の経験を元に改良が加えられており、URL(インターネット上のアドレス)を決めさえすれば、ほとんど手間を掛けずに開始できるようになっていた。
ただし、パーソンファインダーのメニューなどはすべて英語で書かれており翻訳が必要だった。まずカ・ピン イーらは日本語の読み書きができる社員を募って最低限の翻訳作業を行い、パーソンファインダーを起動させた。